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FUTURETRON RECYCLER リリース記念 インタビュー 01
~ 吉野太郎 ~

 

 
【異例の難産!いったん完成していたコンピのリリースに15年かかった理由】

ー:今回は『FUTURETRON  RECYCLER』のリリースおめでとうございます。リリースを延期すること15年の本作が世に出るまでのいきさつをお話しいただきたいと思います。

吉野太郎(以下「吉野」):ありがとうございます。こうやってアルバムが日の目を見たのは中将タカノリくんのお陰です。2004年にはリリースできる状態だったものがいろんないきさつやトラブルもあって延び延びになってしまい、すっかり手の付けようがなくなってしまっていました。そんな中、2015年にタカノリくんに声をかけてもらったのが今回のリリースの直接のきっかけですね。

ー:そう言っていただけると有難いです。リリースが延期になってしまった原因にはどんなものがあるのでしょうか?

吉野:挙げていけばきりがないですが、周囲の推薦で追加する楽曲が出てきたり、僕自身が仕事で多忙になって体調を崩してしまったり、そうしている内に当初CDの流通をお願いしていた業者が廃業してしまったり、連絡がつかなくなってしまったアーティストもいて……本当にいろんなことがありました。

ー:本当にいろいろ!順を追ってお聞きしていったほうが良さそうですね……。

【『FUTURETRON RECYCLER』制作の背景】

ー:ではあらためてアルバムを構想したきっかけについて教えていただけますでしょうか。

吉野:このアルバムの前にも『FUTURETRON  SAMPLER』というコンピアルバムを作ってるんです。初めは自分のユニット・MANIAX♯2のオリジナルアルバムを作りたかったんだけど、オリジナル曲が2曲しかなくてどうしようとなり、音楽評論家の四方宏明さんが主宰しているテクノ情報サイト『POP  ACADEMY』のBBSに相談の書きこみをしたんですよ。そしたら思いのほか話が盛り上がり「コンピを作ろう」ということになったんですね。要は、自分よりレベルの高いアーティストを多数収録したコンピを作り、その中に自分の2曲を紛れ込ませると言うセコい商法です。

モダンチョキチョキズの矢倉邦晃さんにもアドバイスや援助をいただいて、結果的にすごくいいものが出来上がりました。



2001年にリリースして、東京でやったリリースイベントは大盛り上がりでサエキけんぞうさんにも来ていただけたり、CD自体も海外からも購入希望がくるくらい大反響で2年くらいで全部売り切ることが出来たんです。それに味をしめて第2作を作ろうとなったのが『FUTURETRON  RECYCLER』なんですね。

【ZELDAへの恩返し?『FUTURETRON RECYCLER』のテーマとは】

ー:『FUTURETRON SAMPLER』はオリジナルのコンピでしたが『FUTURETRON RECYCLER』はカバーコンピですね。

吉野:はい、自分のオリジナル曲は2曲とも『FUTURETRON  SAMPLER』に収録したし、次はカバーのコンピにしたいと思いました。それも僕の好きな80年代のテクノ、ニューウェーブを現代の感覚で再現するような内容にしたいなと。

僕はYMOや海外のテクノももちろん大好きなんですけど、ZELDAに受けた影響も大きいんですよ。高校の時に神戸のチキンジョージで初めてライブを観て初期衝動のようなものを感じて……そんなZELDAをカバーして、自分なりの恩返しがしたいなと思ったんです(笑)。

その頃、ちょうどJASRACのホームページが開設して著作権使用の手続きがグンと楽になったことも後押しになりました。

【初めは順調だったのに……サラリーマンとしての悲哀】

ー:『FUTURETRON RECYCLER』の制作は順調にスタートしたんでしょうか?

吉野:初めはすごく順調でしたよ。ズンバコバヤシさん、Jellyfishのトモコさんなど前作のアーティストに加え、モダンチョキチョキズのハセベノヴコさんや明和電機の土佐正道さん等も喜んで参加してくれました。

ー:それで2004年にはリリース準備が出来たわけですね。

吉野:はい、ジャケットのデザインも出来ていて、そのまま出すこともできたんですが、ある日、矢倉さんから「逸材がいますよ!√thummってバンドなんです
!」とアーティストの追加を打診するお電話があったんです。CDを聞いてライヴを見て、本人たちとお会いすると、実際とても面白い人だったので楽曲が出来上がるのを待つことにしました。

そして時を同じくして会社の仕事の方が忙しくなってきたんです。それまでは休憩中に会社のパソコンでCDのデザインをしたり、かなり自由に振る舞ってたんですけど、部下がいるようになるとなかなかね(笑)。自分が手がける仕事量も増えて、なかなか以前のように身軽に動けなくなってしまいました。

ー:サラリーマンとしてのご苦労が増えてきたんですね!


吉野:その頃、40歳になるかならないか。それまでは週末にはしょっちゅう夜行バスで東京に行ってレコード買ったりライブを観たりしてたんですけど、好きなことは出来なくなるわ、仕事はしんどいわで、過労で倒れて2週間も入院してしまいました。『女工哀史』みたいな心境でしたよ(笑)。

ー:たぶん僕が吉野さんと知り合ったのもその頃ですね。そんなご苦労をかかえておられたとは気付きませんでしたが。

吉野:そうでしたね。

ー:知り合ってしばらくして吉野さんに田中友直さんを紹介してもらったのが、音楽事務所LAZY  ART設立につながっています。そして、そこから吉野さんの『FUTURETRON  RECYCLER』をリリースするのはなにやら運命めいたものを感じます(笑)。

【2015年……頓挫していた制作が再開したきっかけ】

ー:少し話が脱線してしまいましたが……

その後の『FUTURETRON RECYCLER』企画はどのようになっていったんでしょう?

吉野:2006年には√thummの曲が仕上がって、またリリースできる状態になったんですが、今度はCDの流通をお願いしていた会社が廃業してしまったんですね。早く次の会社を見つければ良かったんですけど、仕事が忙しいのに加えて自転車事故で大ケガしたり母親が体調を崩したりと悪いことが続いてしまい、そういう作業に取り組める気分じゃなくなってしまったんです。完成させたい、リリースしたいという気持ちはずっとあったんですが、時間ばかりが過ぎてしまい、頓挫したような状態になってしまっていました。

ー:いろいろあったことはリアルタイムでお聞きしてましたが、こうやって改めて聞くと本当に大変な状況ですね。

吉野:本当に大変でした。体力的にも精神的にも絶不調な時期でした。でもそんな中、タカノリくんが手を差し伸べてくれたんです。

ー:あれが2015年でしたね。あれからもたっぷり4年間かかってしまってますが(笑)。

吉野:どうせ10年以上かかってるんだから、少し時間はかかっても自分が思う最高のコンピを作りたいと思ったんです。掟ポルシェさん、アーバンギャルドの松永天馬さん、おおくぼけいさん、そしてタカノリくんや田中さんにもぜひこの作品に参加してほしかった。僕にとってはとても大きな企画なので大変なことも多々ありましたが、うまくサポートしてくれたタカノリくんと田中さんにはとても感謝しています。

ー:昔からお世話になっているので、今作に深く関われたことは僕としても嬉しく思っています。




【「『FUTURETRON RECYCLER』の歴史は結婚生活の歴史」 吉野太郎を支えた奥さんの存在】

ー:今作でZELDAの『セイレーン』をカバーしているMANIAX♯2は吉野さんと奥さんの柚木カヲルさんのユニットです。リリースに至るまでには奥さんのサポートも大きなものがあったと思います。

吉野:昔から好き勝手やって迷惑もかけてるのによく許してくれますよね。あらたまって言うのも恥ずかしいですが、嫁には感謝の気持ちでいっぱいです。僕はけっこうお酒に酔ったりしていろいろしでかすタイプなんですが、嫁はさっぱりした性格でクドクド言わないんですよ。15年越しに『FUTURETRON  RECYCLER』をリリースできたこともすごく喜んでくれた。

嫁とは『FUTURETRON SAMPLER』を出した直後に結婚してるんです。だから『FUTURETRON  RECYCLER』がリリースに至る歴史はそのまま結婚生活の歴史でもありますね。感慨深いです。

ミュージシャンとしても嫁の声やピアノの技量は天下一品だと思っています。

ー:吉野さんとカヲルさんはまったく異なる個性ですが稀に見るナイスカップルですね。ぜひ末永く仲良くお過ごしいただきたいと思います。

【コンピアルバムが昇進のきっかけに?サラリーマンがレーベルを運営する醍醐味】

ー:『FUTURETRON RECYCLER』がリリースされて15年間背負い続けたプレッシャーからようやく解放されたことと思いますが、最近はお仕事やプライベートの状況はいかがでしょうか?

吉野:なにもストレスが無いわけではないですが、すこしづつ落ち着いてきてます。実はこの4月に係長に抜擢されたんです。それもきっかけは『FUTURETRON  SAMPLER』だったんです。

ー:コンピアルバムが昇進のきっかけに!?どんなきっかけになったんでしょうか?

吉野:課長の奥さんがたまたま『FUTURETRON  SAMPLER』を聴いていたらしいんですよ。コンピ制作の苦労をわかってもらえる方だったようで「この人は技術者としてだけじゃなくて人をまとめる能力がある」と進言してくれたのが抜擢の決め手になったみたいです(笑)。

ー:レーベルのオーガナイザーとして仕事がサラリーマンとしての立場に貢献する貴重な例ですね!

吉野:幕末に活躍した侠客で小林佐兵衛という人がいるんです。司馬遼太郎の小説『俄・浪華遊侠伝』の主人公のモデルにもなった人で、「カタギで正業を持っていたほうが大きな博打ができる」みたいな言葉を残しているんですけど、それが今の僕の立場とすごくオーバーラップしている気がします。

安定した収入があるからビジネスライクじゃない夢のある企画も出来るし、損しても自分の小遣いの範囲。両立には大変な苦労があることは身に染みてわかっていますけど、サラリーマンやりながらレーベルをやる醍醐味ってたしかにあると思いますよ。また落ち着いたら3作目のコンピも企画していきたいですね!

FUTURETRON RECYCLER
V.A


 

【品番】LACA-10005
【発売日】2019.9.25
【価格】3,500円(+税)

【収録曲】
[Disc 1]
01.愛の残り火 (HUMAN LEAGUE) / 港町YOKO
02.愛は吐息のように (BERLIN) / HONEY MANNIE
03.Planet Earth (DURAN DURAN) / Kaoru175
04.希望の河 (YMO) / アホロートル
05.鏡の中の十月 (小池玉緒) / 桂小ゆかりとノーティーボーイズ
06.UDNACE (URBAN DANCE) / A.C.E. + Shinobu NARITA (UD ZERO) feautring Kengo KOYAMA
07.Music Non Stop (KRAFTWERK) / MAGNAROID
08.ひょうたんアクティビティ (KRAFTWERK) / ヒョウタン総研インターナショナル
09.釈迦 (筋肉少女帯) / Y&M★O
10.いとをしい世界 (ポンポンダリア) / ハセベノヴコ

[Disc 2]
01.Into The Groove (MADONNA) / CYBERSHOTS!!!
02.熱視線 (安全地帯) / 中将タカノリ + TomonaoTanaka (TREMORELA)
03.Heavy Mental Rock (AB'S) / 松前公高
04.Poptones (PIL) / ペイズリーピジャマに しいのあみ
05.Let Your Body Learn (NITZER EBB) / galcid
06.Spiritual Cramp (CHRISTIAN DEATH) / ド・ロドロシテル (掟ポルシェ)
07.東京ブロンクス (いとうせいこう+タイニーパンクス) / 松永天馬 et おおくぼけい
08.セイレーン (ZELDA) / MANIAX#2
09.ふたりのイエスタデイ (STRAWBERRY SWITCHBLADE) / サイボーグ80ズ アンド 由花