FUTURETRON RECYCLER リリース記念 インタビュー 03
松永天馬 et おおくぼけい ~

 

 
吉野 :  こんばんは、今日はFUTURETRON RECYCLER 参加者インタビューとして、”いとうせいこう+タイニーパンクス”の「東京ブロンクス」をカヴァーして下さった”松永天馬 et おおくぼけい” の松永さん、おおくぼさんのお2人にインタビューする事と相成りました。
 松永さん、おおくぼさん、不慣れなインタビュアーですが、よろしくお願いします。
 
 
松永:  こんばんは、松永天馬 et おおくぼけいです。新人です。
 
おおくぼ :  こんばんはー。
 
吉野 :  ありがとうございます!僕が、FUTURETRON RECYCLERに収録されている、このカヴァーを聞いて思ったのは、「裏アーバンギャルド」と言うか、アーバンギャルドと同じ世界観を少し違う視点から覗いてるような不思議な感覚だったのです。今回、「東京ブロンクス」を選曲したのは、「その世界観を表現できる」と言う狙いがあったのでしょうか?
 
 
松永 :  都市とは建物やその集合体を指すのではなく、記憶に基づいたもの、そこに生きる人々の記憶を共有するものだという認識を長らく持ちながら「都会の前衛」をダブルミーニングとして冠したアーバンギャルドとして活動してきました。とりわけ東京は虚構性の強い都市、共同幻想としての意味合いが強い街だと感じています。
 
吉野 :  ありがとうございます。アーバンギャルドの命名は、そういう意図だったのですね。
 
 
松永 :  いとうせいこう氏がこの曲で「東京はなかった」と記したときから、いつかこれをカヴァーしようという目論見はあり、このたび実現させて頂いたわけです。
 
 
おおくぼ :  僕としては、僕の認識として天馬くんはそもそもポエトリーリーディングの世界から音楽に入ってきていると思っているのですが、いとうせいこうさんは日本におけるラップのイノベーターで、その作品をポエトリーリーディング的な方向からカバーするというのは面白いんじゃないかなと思ったんですよね。
 
 
松永 :  そう、J-HIPHOPの草分けともいえるこの曲を、ポエトリーリーディングに解体するというアイデアが、いわばこのカヴァーの肝です。今の時代であれば、もっと朴訥に語るべきリリックであるように感じたんですよね。
 
 
吉野 :  松永さんとおおくぼさんの両意見、興味深いです。
 このオリジナル曲はリアルタイムで聞きました。当時はバブルの全盛期で、これを聞いても、どこか仮想じみた「未来のSF世界での東京」でした。ですが、今、松永さん、おおくぼさんのカバーを聞くと本当に真実味があると言うか・・・。しかも原曲のヒップホップでは無く、ポエトリーリーディング。まさにズシンと心に響く内容です。そこらはメンバー2人の意識が合致したと言う感じでしょうか。
 
 
おおくぼ :  確かに意識はばばっと合致した印象ありますねー。
 
 
松永 :  CDではテクノポップ/ニューウェーブバンドとしての側面が強いアーバンギャルドですが、ライヴではしばしば朗読とピアノによるパフォーマンスを行っています。
今回のアイデアもどちらともなく自然と湧き出たものですね。
 
 
おおくぼ: ばばっと合致して、あれは確か東京に大雪が降った日だったんですが、うちに天馬くんが来てそこで一気にほぼ完成のとこまで作りあげたんでした。
 
 
松永 :  原曲はポップでバブリーで「噂だけの世紀末」だったカタストロフも、今は何処となく真実味がありますね。
 
吉野 :  確かにアーバンギャルドのCDでは派手な面が表に出ていますよね。都市の崩壊。
あの頃は信じられなかったのですが、今では現実にありそうですよね。
 僕のポエトリーリーディングに関する知識はごく少ないのですが、アメリカのビート詩人が似たような「終末感」をリーディングしてた認識があります。あの頃はキューバ危機などあって、アメリカの都市と言えど、全面核戦争で崩壊する危機感があった。僕、個人的には、今回の曲は、ビート詩人と共通点を感じますが、松永さんは、僕とは違う独自の意見をお持ちだと思いますので、お聞かせいただければ嬉しく思います。
 
 
 
松永 :  ビートニク!
僕、個人的にはラップはもっとひらかれたものだと思うんですよ。テクニックやスタイルやファッションでもない、もちろんブレイクダンスやグラフィティとの三つ子である必要もない。ともすれば朗読の類型としてラップがあるのかもしれませんが、詩を発語するという行為は、音楽に対してもっと自由であっていい。
日本は既にガラパゴスですが、ビルボードなどここ数年の世界的なチャートを見ると、詩が音楽に対して自由に発語されつつあるのだと感じます。ビリー・アイリッシュなんかも。ビートニクが切り開いた言葉の世界がロックと共鳴し合ったように、二十一世紀はこういった音楽が、詩が、メインストリームになる可能性も十分あります。そこには現代ならではの絶望が横たわっているかもしれません。ビート詩人にこれ、という影響は受けていませんが、鈴木慶一さんはケルアックからの影響が大きいと聞きました。僕は自他ともに認めるムーンライダーズチルドレンなので、そこから孫引き的な影響を受けている可能性はあり得ます。
 
 
 
吉野 :  ムーンライダーズからですか!。確かに、牽強付会かも知れませんが、鈴木慶一は高橋幸宏と「ザ・ビートニクス」ってユニットを組んでますものね。
松永さんの音楽と詩に関する意見ですが。僕もそこは強く感じました。この曲は、今後の音楽のプロトタイプとなる可能性も秘めていますね。
 さて、少し脱線ですが、おおくぼさん、この曲、1日で完成ですか!事前にアレンジの大枠などは考えていたのでしょうか?
 
 
おおくぼ :  僕は割と即興的な作り方をする方でので、大枠とかは作っておらず、天馬くんとやりながら作った感じですねぇ。
 考えてたことがあるとしたら、原曲よりはちょっとドラマチックな雰囲気にしようってことですね。
 
吉野 :  確かに原曲のバブリーな軽さは無く、おおくぼさんのピアノの素養が満開ですね。非常に奥行きの深い世界です。野暮な話ですが、松永さんのリーディングに合わせて、少し試行錯誤した感じでしょうか。
 
おおくぼ :  プレイ的、アレンジ的な部分では試行錯誤というより、音の要求する方向に正直に向かった感じですが、声の処理に関しては試行錯誤しましたね。
ラップではない、ポエトリーリーディングでもない、しかし、詩であり、朗読であり、言葉であるというような。
 
吉野 :  おおくぼさん、解ります。松永さんらしさを残しつつ、音楽であり、詩でもありますよね。かなり苦労なさったかと。他のインタビューでは中々出て来ない話なので、聞いちゃいますが、具的的にはどのような処理をなさったんでしょう。
 
おおくぼ :  天馬くんは歌の時はかなり大変な、大手術といってもいいようなブラックジャック的なことが必要なんです。でも今回の朗読に関しては、試行錯誤はしましたが、結局、ほぼ一発なんですよ!
 
吉野 :  おおお。流石、松永さん。詩のボクシング優勝者だけはあります。テクノポップでの歌の場合は、やっぱり、多くの人が、DAWソフト上で切り貼りやってますよね。でも、今回の曲、松永さんのポエトリーリーディングが一発録りなのは聞いてて、なんとなく感じてたことが裏付け取れた気持ちです。あの内容で切り貼りすると全体が台無しですものね。
 
おおくぼ :  そうですねぇ。天馬くんも僕もテクノポップをやってる人と思われているかもしれないですが、ライブ感を大切にしていると思います。
 
松永 :  確かに、この曲は「ニューヨークの地下クラブで深夜に行われているパフォーマンスのようなライヴ感で!」とか言いながら録りましたね。
 
おおくぼ :  そうだねぇ。外は雪だったし、うちに来た時点で雪まみれだったけど。
 
吉野 : 確かに、ニューヨークの地下クラブの匂いはしますね(小田実の旅行記「なんでも見てやろう」の描写から)。で、 松永さん、雪まみれだったんですか!。そこでいきなりピアノ弾いて合わせたと。まさにライヴですね!
 
松永 :  あの日確かに小平市は冬のNYでしたね…。
 
おおくぼ :  まぁニューヨーク行ったことないけど(笑)
 
松永 :  同じく!
 
吉野 :  僕もニューヨークは行ったことないんですが、ニュヨーク・パンクスと言うと「テレヴィジョン」のトム・ヴァーラインを思い浮かべます。あの「ヴァーライン」って名前は詩人のヴェルレーヌからだそうで、重層的な文化がありそうですね。
 
松永 :  確かに、原曲の「軽チャー」感「たのしい知識」「ニューアカ」的な乾いた笑いを、もう少しwetにしてもいいかもという意図は僕にもありましたね。
分厚くて難解な学術書で殴り合ってマウントをとる時代は遥か昔に終わったのです!
中沢新一や浅田彰は詩集のように読まれればいいと思うし、蓮見重彦は三島賞作家になりました。それでいいのだと思います。
 
吉野 :  原曲の乾いた笑いにはニューアカ臭の残り香があるかもしれません。しかし。時代は21世紀。往年のニューアカや文壇のマウント取りとは違いますものね。
 で、脱線ですが松永さんの経歴(学歴)は、非常に奥深く、元外務省の佐藤優さんを彷彿とさせます。佐藤優さんと松永さんとでは全然方向性が違いますがw。そこらの影響は松永さんにはありますか?
 
松永 :  佐藤優…外務省のラスプーチンとも呼ばれた同志社の先輩ですね。影響は無いですが、ロシア正教的な過剰さは、確かに僕にもありますね…アーバンギャルドはイコノグラフィなコンセプトですし、ドストエフスキー的な聖性や独白に満ち溢れたバンドではありますね。
 
ただ僕は無神論者なんです。強いていうなら言葉というもののみを信仰している。
 
吉野 :  ロシアと言う国は不思議ですね。ドイツやフランスなどのヨーロッパとオスマン・トルコ帝国などとの中近東、モンゴル帝国などとのアジアと国境を接しあってて、広大な国土。過剰なアイコン性と何か圧倒的な力を感じます。 僕、実 ドス トエフスキーは学生時代、「罪と罰」に挑戦して挫折しました。でもトルストイのアンナ・カレーニナは何とか読破しましたよ。あれも「神」が重要なテーマですね。これが人生の何の役に立つか・・・と聞かれると困るのですが。
 
松永 :  そうですね~。全てが実用書、総じてライフハックな時代になってしまいましたが、非生活的なものもあっていいし、非生産的なものも愛したいですよね。
詩はいわばその最たるものでもあるかも。勿論泣けないしバズらないかもしれませんが、多くのRTより誰かに届けば良いのかなと。
 
吉野 :  言葉の力ですよね。でも、文字では伝えられないものを松永さんは伝えようとしている。今回聞いて思ったのは、おおくぼさんは、そこらを充分に理解した上での演奏を行なっていると言うことです。単なる裏方ではなく、互いに対等なものと言うか・・・。今回のカヴァーは、おおくぼさんのピアノじゃないとダメだった訳で。おおくぼさんは、アカデミックな音楽畑から航空電子!。端から見ると凄い振れ方ですね。
 
 
おおくぼ:  おお、航空電子が出てくるとは(笑)
 
吉野 :  航空電子、よく覚えてますよ!パンクとテクノとロックが入り混じって独特の大変な(笑)音楽でしたよね。
 
おおくぼ :  僕はアカデミックな音楽を学びながらどうじにそれを否定してパンクやフォークのシンプルさに憧れてかなり音楽人生遠回りしてきたかなぁと思ったりしますけど、それこそが僕の大切な根幹になってるし、アーバンギャルドにいる由縁かなと思ったりします。
 
 
松永 :  当時のテクノポップ、80sポップって、電子音やDTMに感応しつつも抗おうとする人間らしさがあって、そこはアーバンギャルドにも受け継がれているところかもしれませんね。
 
吉野 :  確かに’80年代のテクノポップ、例えばYMOのライヴなんか、シーケンスフレーズと人間との戦いでしたものね。
 
松永 :  戸川純さんの電子音に不似合いな生々しさのギャップとか、80s~って感じます。アーバンギャルドもただのポップには回収できないノイズに溢れたバンドに成長しましたね。
 
 
おおくぼ : あぁ確かに純ちゃんさんはそこすごいありますねぇ。そこは海外に無い日本の面白さありますね。
 
吉野 :  ですね。おおくぼさんの多面性って凄い年季入った感じありますもん。アーバンギャルドでも、今回の「松永天馬 et おおくぼけい」でも良いですので、世界進出して欲しいなーとは思ってます!
 
 
松永 :  まあ日本は湿度のある国だから。渋谷は谷だから猥雑だし、二丁目も西海岸的な乾いた風は吹かない。と、ニューアカ的な連想も湧き出るほどに。世界進出のネックは言語ですが、きっとインフラが整う筈。
 松永天馬etおおくぼけいは、ピアノがあればあらゆる場所に馳せ参じましょう。そしてポップスを純度百パーセントの言葉と音楽に立ち返らせるのです。
 
 
おおくぼ : お、言ったね!
 
松永:武装したウワモノやリズムの鎧を脱ぎ捨て、純粋な言葉と音楽だけになりますように。という祈りにも似た一曲です。
 
吉野:  確かに、ピアノと声の世界観ですものね。でも、松永さんは、言葉の力だけでは無く、声の力も凄いと思いますよ。
 余談ですけど、遠藤ミチロウ氏もバンド・「ザ・スターリン」の後、アコギと歌で彼の本質をゴロリと出した音楽をやってましたものね。
 
 
松永 :  やっていましたね。あれもミチロウさんなりのパンクの一スタイルだったのでしょう。
声は時代を超えて面白い楽器であり続けますよね。しかもそこには音と意味が同居している。
 
吉野 :  ええ、声は文学と音楽の両者の要素がありますものね。さて、アーバンギャルドは浜崎さんの凄い魔法が加わって、空前の音楽になってる訳ですが、今回のユニットも長く続けて欲しいと思います。実際、今回のカヴァーを聞くとアーバンギャルドを聞く楽しみも増加する訳ですし。
 
松永 : そうですね。次はこちら名義のライヴをしても良いかも知れません。
オファーを待ちながら、千年の眠りにつきます。マドレーヌの味で思い出したら僕らの名前を呼んで下さい。
 
吉野  : 了解しました。それでは、そろそろ、インタビューも終わりにしましょうか。
松永さん、おおくぼさん、非常に濃い内容をありがとうございました!
 
松永 :  ありがとうございました。詩は立ったまま眠っていますか?
おやすみなさい。羊の代わりに棺を数えながら。
 
吉野 :  こちらこそ、おやすみなさい。
 

FUTURETRON RECYCLER
V.A


 

【品番】LACA-10005
【発売日】2019.9.25
【価格】3,500円(+税)

【収録曲】
[Disc 1]
01.愛の残り火 (HUMAN LEAGUE) / 港町YOKO
02.愛は吐息のように (BERLIN) / HONEY MANNIE
03.Planet Earth (DURAN DURAN) / Kaoru175
04.希望の河 (YMO) / アホロートル
05.鏡の中の十月 (小池玉緒) / 桂小ゆかりとノーティーボーイズ
06.UDNACE (URBAN DANCE) / A.C.E. + Shinobu NARITA (UD ZERO) feautring Kengo KOYAMA
07.Music Non Stop (KRAFTWERK) / MAGNAROID
08.ひょうたんアクティビティ (KRAFTWERK) / ヒョウタン総研インターナショナル
09.釈迦 (筋肉少女帯) / Y&M★O
10.いとをしい世界 (ポンポンダリア) / ハセベノヴコ

[Disc 2]
01.Into The Groove (MADONNA) / CYBERSHOTS!!!
02.熱視線 (安全地帯) / 中将タカノリ + TomonaoTanaka (TREMORELA)
03.Heavy Mental Rock (AB'S) / 松前公高
04.Poptones (PIL) / ペイズリーピジャマに しいのあみ
05.Let Your Body Learn (NITZER EBB) / galcid
06.Spiritual Cramp (CHRISTIAN DEATH) / ド・ロドロシテル (掟ポルシェ)
07.東京ブロンクス (いとうせいこう+タイニーパンクス) / 松永天馬 et おおくぼけい
08.セイレーン (ZELDA) / MANIAX#2
09.ふたりのイエスタデイ (STRAWBERRY SWITCHBLADE) / サイボーグ80ズ アンド 由花